HONG SANGSOO
監督・脚本・撮影・編集・音楽
ホン・サンス
HONG SANGSOO
1960年10年25日、韓国、ソウル生まれ。監督、脚本家。韓国中央大学で映画製作を学んだ後、1985年にカリフォルニア芸術工科大学で美術学士号、1989年にシカゴ芸術学院で美 術修士号を取得。アメリカ留学中に短編の実験映画を数多く製作した。その後、フランスに 数か月滞在、シネマテーク・フランセーズに通い映画鑑賞に明け暮れた。韓国に戻り、1996 年に長編デビュー作『豚が井戸に落ちた日』を発表、批評家や数多くの国際映画祭で絶賛される。2004年に『女は男の未来だ』が、初のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出 品を飾り、男女の恋愛を会話形式で描くその独創的なスタイルから、“韓国のゴダール”、”エリック・ロメールの弟子“などと称され絶賛された。『アバンチュールはパリで』(08)以降、フランスの名女優イザベル・ユペール主演の『3人のアンヌ』(12)や『へウォンの恋愛日記』(13)まで、続けてカンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大映画祭にて出品を果たしている。2013年には、チョン・ユミが主演を演じた『ソニはご機嫌ななめ』が、本国韓国でもヒットを記録した。2012年には、特集上映「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」で来日時のトークイベン トで意気投合した加瀬亮を主演に迎え、『自由が丘で』(14)を発表。2015年、『正しい日 間違えた日』が第68回ロカルノ国際映画祭グランプリと主演男優賞を受賞し絶賛を浴びる。本作に出演したキム・ミニと再び『夜の浜辺でひとり』(17)でタッグを組み、第67回ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)に輝く。以降はキム・ミニを主演に作品を発表し続けている。第70回カンヌ国際映画祭では、『それから』がコンペティション部門に、『クレアのカメラ』がアウト・オブ・コンペティションにと、同年に2作品が招かれたことでも注目を集めた。2020年、キム・ミニ主演作となる『逃げた女』では、第70回ベルリン国際映画祭で自身初となる銀熊賞(監督賞)に輝く。2021年に、25作目『イントロダクション』で第71回同映画祭の銀熊賞(脚本 賞)を受賞、同年に第74回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションで26作目『あなたの顔の前に』が上映される。本作は「2022年 第96回キネマ旬報ベスト・テン」の外国語映画部門で第10位に輝いた。2022年、27作目となる本作『小説家の映画』で、第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞、3年連続4度目の銀熊賞受賞の快挙を果たした。同年にクォン・ヘヒョを主演に迎えた28作目『WALK UP』が、サン・セバスチャン国際映画祭にて出品、2023年には最新作となる29作目『IN WATER』が第73回ベルリン国際映画祭エンカウンター部門に出品されるなど、名実ともに韓国を代表する監督の1人として 現在も精力的に作品を発表し続けている。
AWARD
INTRODUCTION
第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)受賞
『逃げた女』に続くホン・サンス監督の長編25作目
ポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』(19)やNetflixドラマシリーズ「イカゲーム」(21)など、世界的大ヒット作を世に送り出している韓国の映像業界で、独自のスタイルで揺るぎない国際的評価を築き上げてきた名匠ホン・サンス監督。コロナ禍で撮影された長編第25作目にして、2021年の第71回ベルリン国際映画祭で前年に続き銀熊賞(脚本賞)に輝いた『イントロダクション』は、モラトリアムな時期をさまよう青年を主人公に、前作『逃げた女』の変奏ヴァージョンとも楽しめるモノクロームの青春映画だ。
思い通りにいかない人生の痛みと愛しさ
先の見えない時代に生きる全ての若者たちへ
主人公ヨンホを演じるのは、『草の葉』(18)、『川沿いのホテル』(19)からホン・サンス作品に出演し、『逃げた女』で“野良猫の苦情を訴える隣人”に扮して奇妙なインパクトを放ったシン・ソクホ。恋人ジュウォン役には、シン・ソクホと共に監督のもとで学んだパク・ミソという新たな顔ぶれが加わった。ホン・サンスの公私のパートナーであるキム・ミニが第2章でベルリン在住の画家役として出演し、ソ・ヨンファ、キ・ジュボン、チョ・ユニといったホン作品の常連キャストが脇を固めている。
紹介、入門、導入、序文など、そこに込められた全ての意味を内包したと監督が語るタイトル「イントロダクション」、そして観る者の想像力を豊かに押し広げる語りを通して、ままならない人生の中でもがく、未熟な若さゆえの痛みと愛おしさを、モノクロームで詩情豊かに紡いだ青年ヨンホをめぐる三つの物語。
STORY
将来の進路も定まらず、まだ何者にもなれないナイーブな青年ヨンホ。韓国とベルリンを舞台に、折り合いの悪い父、夢を追って海外に旅立ってしまった恋人ジュウォン、息子の進路が気がかりな母との再会と三つの“抱擁”を通して、一人の若者の人生が紐解かれていく。誰もが経験する青年期の迷いや喪失、孤独を抱え、恋に夢に破れながらも、やがて心安らぐ温もりに満ちた瞬間が訪れる…。
CAST
シン・ソクホ
SHIN SEOKHO
ヨンホ役
1989年6月15日生まれ。ホン・サンスが教授として在職している建国大学映画芸術学部で学ぶ。ホン・サンス監督作品では、『正しい日 間違えた日』(15)にスタッフとして参加し、『草の葉』(18)『川沿いのホテル』(19)に出演、『逃げた女』(20)では猫の男を演じ、本作『イントロダクション』で初主演を飾った。『あなたの顔の前に』(21)では、主人公サンオクの甥スンウォンを演じている。その他の出演作は、ホン・サンス監督のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒの監督デビュー作『チャンシルさんには福が多いね』(21)、イ・ドンフィ主演の『グクド劇場』(20、未)など。
パク・ミソ
PARK MISO
ジュウォン役
本作『イントロダクション』で長編映画デビューを果たす。2019年、建国大学映画芸術学部にてホン・サンス監督の講義を受講したことがきっかけで、撮影に参加することとなった。ホン監督の最新作『The Novelist’s Film』(22)にも出演している。
キ・ジュボン
KI JOOBONG
俳優役
1955年9月3日生まれ。徐羅伐芸術大学演劇映画学科で学ぶ。主な出演作は、パク・チャヌク監督『JSA』(01)、『復讐者に憐れみを』(02)、イ・ユンギ監督『アドリブ・ナイト』(06)、ソン・ヨンホ監督『鬼はさまよう』(15)、ユン・ジョンビン監督『工作 黒金星と呼ばれた男』(18)など。ホン・サンス監督作品では、『自由が丘で』(14)、『正しい日 間違えた日』、『川沿いのホテル』、本作『イントロダクション』、そして最新作『The Novelist’s Film』に出演。『川沿いのホテル』では第71回ロカルノ国際映画祭、ヒホン国際映画祭、釜山映画評論家協会賞などで主演男優賞を受賞した。テレビドラマシリーズへの出演も多数。
ソ・ヨンファ
SEO YOUNGHWA
ジュウォンの母役
1968年生まれ。ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』(03)、ハン・ジェリム監督『恋愛の目的』(映画祭/05)、キム・テギュン監督『クロッシング』(08)、イ・ギュマン監督『カエル少年失踪殺人事件』(10)などで知られる名バイプレーヤー。ホン・サンス監督では『よく知りもしないくせに』(09)、『教授とわたし、そして映画』(10)、加瀬亮の恋人役をつとめた『自由が丘で』、『正しい日 間違えた日』、『草の葉』に出演。本作『イントロダクション』、『あなたの顔の前に』の通行人役に続いて、最新作『The Novelist’s Film』では主人公の友人役で出演している。
キム・ミニ
KIM MINHEE
画家役
1982年3月1日生まれ。ドラマ「学校2」(99)で俳優デビュー。パク・チャヌク監督『お嬢さん』(16)の演技で、青龍映画賞最優秀女優賞、ディレクターズ・カット・アワードの最優秀女優賞を受賞し、国際的な注目を集めた。『正しい日 間違えた日』(15)以降、ホン・サンス監督作品に出演を重ね、『夜の浜辺でひとり』では韓国人俳優としては初の快挙となる第67回ベルリン国際映画祭主演女優賞 (銀熊賞)に輝いた。その後も『草の葉』、『川沿いのホテル』『逃げた女』、本作『イントロダクション』に出演。『あなたの顔の前に』ではプロダクション・マネージャー、スチールカメラマンとして参加し、最新作『The Novelist’s Film』では女優役として出演している。
COMMENT&REVIEW
もし凍ってしまった水たまりのようなものが、
長年寒々と心の痛みになっているのだとしたら、
この映画たちはきっと、それを静かに溶かしてくれる。
加瀬亮
彼はまだ色を知らない
色を見失った人との抱擁は人生のパレット
僕らは未だ彩を知らない
満島真之介
俳優
ホン・サンス監督の映画は否定、が描かれていないように思う。
そこに余白が必ずある。そうだ。
この世界って、衝動や意地や後悔、
そんな生ぬるくどこに連れていかれるかわからない風を
いつも隣に感じて生きているじゃないか、と思い出す。
玉城ティナ
女優
この映画の中で、川のように流れる美しい悲しみを見つけた。
それは、お守りのようにずっと持っていたい悲しみだった。
尾崎世界観
クリープハイプ
たわいもない時間におこる小さな行き違い。
映画の場面と場面の間に、人と人の間にある含みを読むのが楽しい。
その行間に感動が宿る。
そこにホン・サンスのミニマムな撮影の最高の到達点を見た。
行定勲
映画監督
友人と散歩に出かけたある日のことを思い出した。
ぽつりと話したり、沈黙したり。たらたら歩くうちに、
友人のほろ苦い思いが見え隠れして、
私たちはカフェラテのマーブル模様の中を歩いているみたい、
と思ったその日のことを。
古川琴音
女優
例えば台本の1行目より前に、登場人物は何をしていたか。
例えばシーンとシーンの間、画角の外側、ふたつ隣の部屋。
地味、平坦、描く価値がない、なんてことはなくて。
その余白に、小さな自分を抱擁してもらえるような映画です。
松居大悟
映画監督・ゴジゲン主宰
抱きしめる。タバコを吸う。
ぜんぜん幸せそうじゃ無い人たちへのご褒美みたいな
抱擁と喫煙に、監督のカメラが迫る。
笑顔のヨンホが痛々しい。この痛み、青春だ。
冬の海にザッパーンとは。どう見たって青春だ。
大九明子
映画監督
毎日でも食べ飽きない、
それがホン・サンスの味ざんす
ホンマタカシ
写真家
シン・ソクホの微笑みが印象的。
彼はもう世界に対して微笑みながらタバコを
ふかすことしかできないのだろうか。
中島歩
俳優
ホン・サンスが青春を抱きしめているのではない。
ホン・サンスが青春に抱きしめられているのだ。
モノクロームの雪と波。
ただそれだけで、彼は世界でいちばん蒼い映画作家へと転生した。
相田冬二
Bleu et Rose/映画批評家
敬称略・順不同
全ての映画には始まりと中間と終わりが必要だが“必ずしもその順番である必要はない”という有名な言葉を残したジャン=リュック・ゴダール。
韓国のホン・サンス監督は、少なくとも1960年代後半のゴダールと同様に近年多作で、独自の秘密めいた方法で、少なくとも同様に過激に、この原理を実践し、さらに突き進んでいる。
あらゆる全てに追われる中で、私たちの中には焼酎を一杯片手に、氷のビーチを散歩したいと切望する者もいる。
そこでは、ロマンティックな不調和と用心深い礼儀正しさは、突然の感情のスコールによって中断されてしまうだろう。
この味は、手に入れる価値がある。
The New York Times
短く、鋭く、深い。
不器用な出会い、愉快な会話、あふれるロマンティックなメランコリー。
ホン・サンスのよく知られた世界には、こうした確かな楽しみ、いや喜びがある。
Los Angeles Times
その心地よく穏やかな表面の下で、豊かな報酬が待ちうけている。
Variety
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長年寒々と心の痛みになっているのだとしたら、
この映画たちはきっと、それを静かに溶かしてくれる。